天麗京に、世を騒がすがしゃどくろと煙々羅なる妖怪あり。

そう語られるようになったのは、つい最近のことだ。 この頃、この二人の妖怪が度々都で目撃されるようになり、人々はいつ何時この妖怪たちに襲われるのかと震え上がっていた。

かたや、山のような巨体の骸骨に、かたや、全く姿を視認することのできぬ不可視の妖怪。 しかも、それぞれの妖力はこれまでに都に現れた妖怪たちよりも遥かに強大なもの。 それに加え、いつ何時都に、いかなる手段で現れるのか、全く特定が出来ておらず、その神出鬼没さに都を守る兵たちも大いに頭を痛めていた。

陰陽省の宗主・ミカゲは、宮中よりこの妖怪の封印の命を受け、弟子のリュウメイを任務に就かせる。ほどなく、リュウメイは彼らと接触するが、何故かリュウメイは彼らを封じるどころか、却って友好関係を築いてしまい、「とりあえず都に悪いことはしないと約束してもらいました!」などと呑気な報告をするのだった。

宮中では本来の任務とは違う行動を取ったリュウメイを糾弾する声もあったが、何故か師であるミカゲも「いや~~ボクもそれとても良いと思うよ! 大賛成!」とそれを支持し、「要するに害が出なければ良いんでしょ?」と異議を封じ込めてしまった。

そのため、がしゃどくろと煙々羅の噂は時折都で聞かれるものの、何故か彼らは一向に討伐されないという、よくわからない状況になっていた。

(宗主様はあのように仰っていたが……私はその妖怪たちを信用できない)

ミカゲの最も優秀な弟子の一人であるセイナが、師匠であるミカゲに反発するのは極めて珍しいことだった。 リュウメイと同じく、セイナは妖力を察知する才覚に非常に秀でている。それ故、この都を騒がせるがしゃどくろと煙々羅が、リュウメイを始めとした式神使いたちの力の源流を探っていることにも気づいたのだ。

(リュウメイめ……どう考えても奴らは私たちの力を狙っているではないか! 奴らと取引をしたところで、相手は妖怪。信用できるはずがない)

リュウメイは相変わらず妖怪を微塵も恐れずに歓迎するが、一方でしょっちゅう都に現れ、騒ぎを巻き起こすこの二人の妖怪を、セイナは煩わしく思っていた。

(今日こそ、あの妖たちを封じてやる――)

丑三つ時。 セイナは封印の呪符を十分に準備し、都の外れの廃村でユラとムコツを待ち構えることにした。

彼らは、式神使いの気配を学んでいる。単独で行動する式神使いが居れば、相手の方から接触を図るはず――そうセイナは踏んでいた。