「おう! 精が出るのう、ステラよ。お主の鍛錬の一心不乱さ、見ていて清々しくなる」
主君より声を掛けられた龍喚士ステラは、額の汗を拭い一礼する。
「これはグラン様。勿体無いお言葉です」
白い宮殿の中心に造られた、広大な庭。安息日の今日は、城仕えの者たちも休暇を取っており、寝静まったように静かだ。ステラは中庭で一人武芸の鍛錬に勤しんでいた。
「相変わらず固い奴じゃのう。もっとフランクに接すればよいと言うておるのに」
からからと笑う主君・ソニア=グラン。しかし、ステラは「いえ」と一言断ってから、彼女の主義を語る。
「私はあくまで、グラン様の剣として仕える身。従者は常に、主人を支えるために動き、黒子としてその役割を果たすべき――そのように考えております」
「それがくそ真面目じゃと言うておるのだが……ま、それもお主の良さよな」
差し入れじゃ、とグランは柑橘を絞ったジュースの瓶を差し出した。ステラが大事そうに「感謝いたします」と恭しく受け取るものだから、それでまたグランは少し吹き出した。
「お主ら三姉妹は、どうしてこうも性格が違うのかのう。本当に同じ血筋なのかと疑うレベルじゃぞ」
自分用のジュース瓶をラッパ飲みしながら、楽しそうにグランは語る。一方のステラは、丁寧に蓋を開けながらも神妙な面持ちである。
「フィオとクレアのことですか?あれは、力量はあるとはいえ、未だ士官としては未熟な身ですから……常々迷惑をおかけして申し訳ございません」
「別に悪く言うておるのではないぞ。むしろお主ら三人の個性が際立ってて、面白すぎるぐらいじゃ。毎日話していて飽きが来ない」
「そういうものでしょうか」
「そういうものじゃよ。皆が皆、仕事にくそ真面目な性格では、画一的すぎて退屈じゃろ。みんな違うとその分面白いのじゃから」
ぐい、とジュースを飲み干したグランは、天を眺める。流れる雲は少なく、夏の暑さがじわじわと染み込むような日差しが、中庭に差し込んでいる。
「それにしても、暑いのう……今日はもうこの後閉店でもよいのではないか」
「明日までに万事整っているのであれば、多少サボってもらっても構いませんが」